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第810話

グラウンド脇を通り更に10分程歩けば中学校。 此方にも行きたい様なので案内をする。 小学校のプール脇を曲がり、ただ真っ直ぐに進むだけ。 その距離がめんどくさいと思った当時とは真逆に、今はもっと歩いていたいと思う。 長岡の隣は、心地良い。 ちらりと盗み見た横顔はマスクで半分が隠れているが、それでも端正な顔立ちが分かる。 マスクで隠れているのは残念だが沢山見てきた顔は隠れていたって頭が覚えている。 それはウイルスに侵害される事はない。 「お、こっちは更に綺麗だな」 此方の校舎は更に新しい。 新設して10年程だ。 以前の校舎は度重なる地震で彼方此方に不備が生じ、校舎自体も少し傾いていたらしい。 だからという事ではないらしいが、建て替えられ強度を増した校舎は弟を守ってくれている。 「確か、弟が通ってるんだよな?」 「はい。 今、中2です」 「楽しい盛りじゃねぇか。 つか、遥登の兄弟って反抗期あんのか?」 「ありますよ。 今、真っ盛りです。 両親がいるとブスっとするんですけど、それも可愛くて」 クスクス笑う長岡にハッとした。 つい何時もの癖でブラコンの気を見せてしまった。 「遥登が兄ちゃんの顔するのすげぇ良い。 俺には引き出せねぇし弟が羨ましいよ。 それにしても、家庭のにおいが似合うな」 校門横の松をさわさわと揺らす風が緑のにおいと共に長岡のにおいを巻き上げた。 「比べるものではないですけど、俺は正宗さんの隣が1番好きです」 繋いだ小指に力を入れて、素直な言葉を紡いだ。 長岡と会えるようになって漸く息が出来た。 家族は勿論好きだ。 だけど息を詰めていたんだと、長岡に会って分かった。 貴方の隣がどれ程大切だったか。 どれ程心地好かったか。 生きていると感じていたか、思い知った。 「弟に恨まれそうだ。 でも、光栄だよ」 「正宗さん」 「俺も、遥登の隣が1番好きだ。 遥登と一緒に食う飯程美味いもんはねぇし、楽しい事もねぇ。 早く長く一緒に居られる様になりてぇな」 「はい」 「今は出来る事をするのが最善だからな。 そろそろ戻っか。 あ、そうだ。 風呂に入ったらおかず…」 「外ですよっ」 「ははっ、はいはい」 今来た道を、またゆっくりと時間をかけて戻っていく。 今はこの時間を2人で分け合いたい。

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