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第811話
今来た道を引き返しながらもう少しだけ逢瀬を楽しむ。
折角会えているんだから目一杯、恋人を堪能しなければ勿体ない。
心なしか嬉しそうな足音とサラサラと動く髪が隣にある。
そんなしあわせをだ。
「そういえば、制服ってブレザーと学ランどっちだったんだ?」
「学ランです。
だから、高校ではじめてネクタイ結んだんです。
慣れるまで不恰好で…」
「…犯してぇ」
心の底から吐き出された言葉に三条は慌てて小指を引き寄せた。
「だから外ですってっ。
聞かれたらどうするんですか」
「想像の遥登すげぇ可愛い。
声変り前かぁ。
やべぇな」
今の恋人も可愛いが会う前のより幼い三条も可愛い。
純真無垢で守られるべき子供で、愛される存在。
しあわせそうに笑う三条。
「だけど、やっぱ今の遥登が1番だな。
触れるし」
絡まった小指を掲げれば、一等綺麗な笑みが咲く。
「俺も、今が1番好きです」
大きな住宅の脇に所有の水田があり、そこには緑が伸びている。
空気も、学生街のあの辺りよりすっりしている。
「遥登が育った町って感じがする」
決して都会ではない。
でも、田舎でもない。
新幹線駅があって、大きなマンションやホテルが建てられ、1本奥の道を行けば田んぼや畑がある。
川があって山が見えて、子供がいて高齢者がいる。
豊かだと思う。
この子が育ったと分かる此処はとても空気が気持ち良い。
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