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第812話

「此処で大丈夫です。 ありがとうございます」 万が一を考えて自宅前はなく少し離れた場所で分かれるのだが、やっぱり分かれは寂しい。 また来週必ず会えるとは限らない。 感染者数が増えれば会えないんだ。 それも何時までかも分からずに。 もう少しだけ…と口から我が儘が出そうになる。 「遥登、次はどこ案内して貰おうか考えとくからまたデートしような」 「はい」 それに、もう随分と長い間キスをしていない。 触れられるのは小指だけ。 最初はそれさえ渋っていた。 いや、会う事自体をだ。 分かっている。 感染リスクを限りなく少なくする為。 足並みを揃えないといけないから。 長岡は何度も済まなそうな顔をしていた。 気にする事なんてなにもないのに。 会いたいのは自分の…2人の事なのに。 「気を付けて帰れよ」 「正宗さんこそ、気を付けてください」 「ん、任せとけ。 ちゃんと気を付けて帰るよ」 最後に小指を約束だと揺らすと、同じものが返ってきた。 見たげた目に、ふふっと頬を緩めた自分が映っている。 リモートじゃ見えないそれ。 会っているんだと頭が処理していく。 半歩近付き薄くともにおいを肺に入れギリギリまで堪能さておかなければ。 「デート、約束だからな。 手洗いうがいして予防しとけ。 それと、毎回言ってるけど弟と沢山遊んどけよ。 俺が1人占めしても恨まれないようにな」 「はい。 ありがとうございます」 「弟分番犬みてぇだもんな」 街灯の下、あと少しだけをしっかり堪能した。

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