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第823話

「んー…」 渋い声と共に小さな頭が動いた。 「ちゃぁ…」 タオルを身体から落としお尻を上げてから立ち上がる。 幼児特有の動きがとても可愛らしい。 寝ぼけ眼を小さな手が擦り、すぐに黒猫の友達を持って母親に抱き付いた。 「綾登、おはよう」 頭を撫でられながらかけられる母の優しい声に、また目がとろんとしきている。 あの優しい手には逆らえない。 兄達も逆らえず何度も夢の中へと導かれた事か。 だけど、兄が口にしているものを見て、あ!と指差した。 「んまっ」 「寝起きで食えんのか」 「綾登の分もあるぞ。 かぼちゃの蒸しパン」 「きゃぁ」 ラップで保湿されている綺麗なオレンジ色のパンを手渡すと、うにゃうにゃと喋り早速大きな口が齧り付いた。 寝起きで食べられる辺り三条の弟だ。 「でっけぇ口」 「んーあ」 「麦茶も飲もうね」 「ん!」 母親の膝の上から長男の元へ来ると、どうぞと蒸しパンを差し出す。 余程美味しいらしい。 ありがとうと一口貰った。 「美味しいな」 「へへぇ」 次は次男。美味しい物は1人占めせずみんなに分ける。 自分の弟ながら良い子だ。 「んー!」 「俺にもくれんの? でっけぇ口で食べちゃうぞ」 「うへへっ」 次男には勝てないが、弟達の事が大好きな長男は優しい成長にじんと胸をあたたかくした。

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