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第825話

無料アプリを使ってビデオ通話をするのも、もう数え切れない程してきた。 一緒にゲームをしたり、ただ繋げただけで各々好きな事をしたり。 長岡の部屋に居る時と同じ様に過ごす日々は、こんな世情の中の癒しだった。 「流れ星ですよっ」 無人島は随分と賑わい七夕飾りで彩られたそこに、流れ星が一瞬のきらめきを見せた。 『七夕に流れ星なんてロマンチックだな』 「正宗さんになら、ベタな事されてもトキメイちゃいます。 かしずかれながら告白とか。 似合いそうです」 『して欲しいならしてやるぞ』 「……あの、言い出しておいて失礼なんですが、真顔で言われると冗談か本気か分からないですよ。 それに、俺にはあの日の言葉が1番です」 高校1年だったあの日の俺は、ひたすら走ってひたすら泣いて、最愛の言葉を貰えた。 それ以上の事があるだろうか。 俺にはない。 とても大切な言葉だ。 『人誑しめ…』 「人誑しって…。 人聞き悪いです…」 『誑しだろ』 頬杖を付いて穏和な顔をした恋人はさらりととんでもない事を言う。 そもそも、誑しなら長岡の方だ。 担任が長岡だと分かった瞬間の女の子達の嬉しそうな顔を忘れたのか。 女の子だけじゃない。 女性教諭だって─特に英語科の─嬉しそうに頬を染めながら話しているのに気が付いていない訳がない。 「イケない大人に捕まったんです」 『成長期こえ…』 長岡の真似をするも、すぐに口元が笑ってしまう。 でも、相手が長岡で本当に良かったと思う。 だって、こんなにしあわせだ。 作り物の笑顔を張り付けて教鞭を振るうイケメン先生の本物の笑顔がこんなに近くで見られる事も、そんな優しい人に愛される喜びも、長岡から教わる事が出来て本当に良かった。 この身を包んでくれるのは長岡と長岡からの愛情。 世界で1番しあわせだって、雲の上で久し振りの逢瀬を楽しんでいるであろう2人にだって勝てる自信がある。 だけど、1番は長岡が良い。 長岡が1番しあわせだと嬉しい。 「あ! また流れ星です」 『遥登も願い事しとけ』 「そうですね。 正宗さんもしましょう」 『ん、しようか』 新型ウイルスが少しでも早く収まります様に それと、早く隣に行きたいです

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