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第826話

一足先に神社に到着した長岡は、境内脇に貼られたアマビエをモチーフにしたお守りの案内書を読んでいた。 活字中毒は、とにかく活字をなぞりたくて仕方がない。 坊主が金儲けすると地獄に堕ちるんじゃなかったか…? いつだったかそんな内容の本を読んだ気がする。 なんだったか。 調べようとスマホを取り出し、すいすいとなぞった。 学生の頃に読んだ本だったか。 記憶が薄すぎる。 十六小地獄まで出てきた所で小さな足音が聴こえてきた。 この歩き方は三条だ。 学生時代は柏も蓬も足音を聞き分け自分の帰宅を待ち侘びてくれていたが、今は自分がそちら側らしい。 参道に恋人の姿が見えるとスマホを閉じた。 そして、自分に気が付いた恋人はパッと可愛い顔をする。 尻尾を振って駆けてくる犬が重なって見えるのは気のせいじゃない。 「正宗さんっ」 「こんばんは」 「こんばんは。 お待たせしましたか?」 「今来たばっかりだよ。 地獄調べようとしてた」 「地獄…? 神社でですか?」 マスクで顔の半分が隠れていても、眉間に皺を寄せ不思議そうな顔をするのがよく分かる。 感受性だけでなく表情も豊かな恋人だ。 何度も見てきた表情に肩の力が抜けていく。 「そ。 坊主が金儲けすると堕ちる地獄があった気がしてな」 「そういう事ですか。 あ、行くなら俺も着いていきますからね」 「地獄も遥登となら天国だな」 「神様に怒られますよ」 「嘘吐くと舌抜かれるんだろ。 だから正直に話してんだよ」 ずっと思っている。 地獄に行くなら2人でだ。 「そんな事より、デートしようか。 神より遥登だ」 「へへっ。 はい」

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