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第827話
随分と雑草の伸びた土手をゆっくりと歩く。
「そうだ、後期もオンラインだそうです。
また定期代浮いちゃいますね」
そう言って無理に笑う三条が痛々しい。
勉強がしたくて、目標があって入学した筈なのに半年もそれが充分に出来ていないなんてもどかしくてつらいだろう。
更に半年ものびるのか。
それに、大学での授業が再開されれば会えると思っていたのは三条だけではない。
何処かで期待していたのは同じだ。
顔を見るだけ。
小指を繋ぐだけ。
決して今までが贅沢だった訳ではないのに。
長岡は緑のにおいのする空気を吸い身体に巡らせる。
「貯金しとけ。
出世したら、温泉、連れてってくれんだろ」
細い髪を指の背で撫でると、くりくりした目がやわらかく細められた。
目の端が嬉しそうに色付く。
やっぱり、こっちの顔の方が似合っている。
「はい」
「酒も飲もうな。
何時が良いよ。
桜見ながらも良いし、月が綺麗な時に月見酒ってのも贅沢だよな」
そっと小指を繋ぐと強く絡められる指と指。
「山菜が美味しい季節が良いです」
優しい恋人がこれ以上傷付かないように、今自分が出来る事をするしかない。
「今度はゴム持っていこうな。
そうしたら、温泉でも気にせず出来んだろ」
「……ごむ、は…いらないです…………まさむねさんの、うれしいから」
段々と小さくなっていき、暗がりでも分かる程耳を真っ赤にしている。
「そうか。
嬉しいか。
俺もすっげぇ嬉しいから、沢山出すな」
「………はい」
早くそんな日常になれば良いな。
とんっと肩をぶつけ笑顔を咲かせる。
「遥登あの木、気にしてたよな。
あの木が咲く頃が良いか」
「絶対、行きましょうね」
「うん。
絶対だ」
笑顔まで奪われてたまるか。
この子の笑顔は俺の大切なものだ。
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