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第829話

「綾登、お口の周りが美味しそうだよ。 ちょっと拭かせてね」 「んー」 先に口を拭ってから麦茶の入ったマグを渡せば、ごくっごくっと喉を鳴らして飲んでいく。 この食欲は兄弟似だ。 可愛いと思うのと同時に食費がすごい事になりそうだと心配もある。 母親の作る食事が美味しいのも一因だ。 絶対そうだ。 それに、沢山食べると嬉しそうな顔をしてくれる。 それが嬉しくて、つい食べ過ぎてしまう。 「ご馳走さまでしたしようね。 出来るかな」 「んま、たー」 小さな手を合わせてご馳走さま。 三条も同じ様に手を合わせて、ご馳走さまでしたと声に出した。 感謝は口にしなければ伝わらない。 きちんと口にして気持ちを伝えなければ勿体ない。 「はい。 綺麗に食べてくれてありがとう」 だって、母もこう言ってくれる。 「ちゃー、ちゃ!」 「おかわりいるの?」 「あーい」 カレーを食べる手を止めず幼い弟と母親のやり取りを見ていた。

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