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第837話

時々、煙草が恋しくなる。 いや…正確には、口寂しくなる。 遥登がこの部屋に出入りしていた時は感じなかった寂しさを、気を、紛らわしてくれるものを欲していた。 そうでもなければこの部屋は寒すぎる。 夏なのに、何を言ってるんだろうな。 三条が好んで飲んでいた甘いコーヒーを飲みながら、ビデオ通話をしているというのに、とんだ甘えただ。 『それで、田上がぼろ負けしたんです』 「田上ってゲーム弱ぇのか?」 『そうでもないですよ。 格ゲーとか強いです』 「脳筋タイプか」 『そうですね。 考えるより動くと強いんですよ』 「ゲームって性格出るよな」 『吉田は意外とコツコツするタイプですし当たってますよね』 ふにゃふにゃと笑う三条の隣はとても居心地がよく、寂しいだの辛いだの忘れてしまうのだが本当はこの現状に少し疲れてきているのかも知れない。 とはいえ、それは恋人もだろう。 折角進学したと言うのに満足に授業も受けられず、それだけではなく外出をするな拡げているのは若者だと悪意の籠った言葉を吐かれて、あの感受性が平気な訳がない。 甘えさせたいのだが、それも中々タイミングがあわずもう10日が過ぎた。 春先の2ヶ月に比べれば会えるようになってきたのは紛れもない事実なのだがな。 『正宗さんは才能…どうかしましたか?』 「遥登は可愛いなって見てた」 とは言え、格好良いが良いですなんて言ちながら顔を赤くする恋人が恋しくてたまらないのも事実。 どう甘やかそうか、そして甘えようか頭の中で考えた。

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