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第842話
長岡は深く息を吐くとストンと肩から力を抜いた。
「風邪ひかせたと思った…」
「あ、…すみません…」
「本当に勃っただけか?」
「…はい」
恥ずかしくて居たたまれない。
恋人が心配してくれたのに勃起した事が理由だなんて申し訳ない。
申し訳なさ過ぎる。
良かった…と誰に言う事もなく呟かれた言葉が
どれだけ心配してくれたかを伝えてくれる。
長岡は何かを考えた様な顔をし、スマホを弄りだした。
タオルで顔を隠しながら下を向くとその沈黙に耐える。
せめてもの救いがこの原因を作った雨粒が車体を叩く音だなんて。
スマホを見ていた長岡は一度三条を見、それから漸く口を開いた。
たった数分だろうが、三条には長く感じたのは言うまでもなく。
「遥登、少し付き合ってくれるか」
「え、はい」
「じゃ、移動するからシートベルトしてくれ」
スマホを助手席に置くと自動車はゆっくりと動き出した。
赤い光が遅れて後を着いてくる。
駐車場から自動車を滑る様に動かすと何処かに向かって走らせる。
不安はあるが、それでも長岡と2人きりなのが嬉しい。
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