842 / 1502

第842話

長岡は深く息を吐くとストンと肩から力を抜いた。 「風邪ひかせたと思った…」 「あ、…すみません…」 「本当に勃っただけか?」 「…はい」 恥ずかしくて居たたまれない。 恋人が心配してくれたのに勃起した事が理由だなんて申し訳ない。 申し訳なさ過ぎる。 良かった…と誰に言う事もなく呟かれた言葉が どれだけ心配してくれたかを伝えてくれる。 長岡は何かを考えた様な顔をし、スマホを弄りだした。 タオルで顔を隠しながら下を向くとその沈黙に耐える。 せめてもの救いがこの原因を作った雨粒が車体を叩く音だなんて。 スマホを見ていた長岡は一度三条を見、それから漸く口を開いた。 たった数分だろうが、三条には長く感じたのは言うまでもなく。 「遥登、少し付き合ってくれるか」 「え、はい」 「じゃ、移動するからシートベルトしてくれ」 スマホを助手席に置くと自動車はゆっくりと動き出した。 赤い光が遅れて後を着いてくる。 駐車場から自動車を滑る様に動かすと何処かに向かって走らせる。 不安はあるが、それでも長岡と2人きりなのが嬉しい。

ともだちにシェアしよう!