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第854話

ビールも冷えてる。 つまみに枝豆もレンジで加熱した。 三条との通話も快調だ。 三条の島へと移動すると浴衣を着た可愛い分身が迎えてくれる。 下駄で走るとカコカコと可愛い音がして風流だ。 広場には島の住民が集り、詐欺師が出店を開き賑やかでなんとなく嬉しくなる。 当たり前だった景色が変わらずそこにある事がこんなにも安心するのか。 『花火、楽しみですね。 あ、正宗さんの浴衣姿またみたいです』 「俺も。 ついでに脱がせてぇ」 『…また、そうやって…からかう……』 なんて、くだらない話をしながら花火大会がはじまるのを待つ。 くだらないけど、くだらなくない。 三条との会話はすべてが大切だ。 照れたように笑う恋人と談笑していると、パンッと破裂音と共に美しい花が咲いた。 『あ、はじまりました』 今年は見る事を諦めていた花。 大きな花が咲いている。 それを今年も恋人と見られるなんて思いもしなかった。 『綺麗ですね』 「あぁ、綺麗だな」 遠くにいても同じ物を見られる。 声を聴ける。 こんな時だって楽しい事はある。 「遥登、飲もうぜ」 『はいっ』 こうして一緒に飲めるのを楽しみにしていた。 年甲斐もなくわくわくしてしまう。 プルタブを開ける軽い音が通話口の向こうからも聴こえてくる。 乾杯、と声をかけてぐーっと喉へと流し込んだ。 「遥登と飲む酒は美味ぇな」 『大袈裟ですよ』 「俺と飲む酒は普通か?」 『すっごく美味しいです』 なんだか今日の酒は一段と美味い。 恋人と、それも元教え子と飲む酒はなんとも感慨深い。 もう大人の仲間入りだ。 もう夜中に一緒に歩いてたって大丈夫。 本当に寂しくて嬉しい成長だな。

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