856 / 1502
第856話
日付が変わってもなんだか名残惜しくて浜辺に移動し、2人で花火を楽しんでいた。
「まさか打ち上げ花火まで当たるとはな。」
『楽しいですね!
手持ちも沢山当てたので使ってください』
海で恋人と花火なんて青春みたいだ。
だが、とっくに過ぎ去った青い春はいつ味わっても良いものだ。
それも、恋人となら尚更な。
まだ少し残っているビールは机の端に追いやられ、長岡は更にだらりとした体勢をとる。
『そういえば、前に海に連れていってくれたじゃないですか。
俺、日に焼けると赤くなって痛くなるから海ってあんまり行かなかったんですけど、あの時間なら日焼けとか気にしなくて良いですし手も繋げました。
すごく嬉しかったです』
ふわふわと笑う、その笑い方がとても好きだ。
三条だと分かる笑い方が。
穏やかな三条によく似合う顔は自分を随分と変えてくれた。
同じ様に穏やかな笑みを称える様になった長岡のこの笑顔を多くの人は知らない。
弱くなったのかもしれない。
友人の言う通り丸くなったのかもしれない。
だが、その友人も今の方が好きだと言ってくれるし、実際今の方が人間らしくなれたと思う。
今の方がずっと自分を好きになれた。
「また行こうな」
『はいっ』
新しい約束を沢山つくって沢山叶えたい。
今、会えない分以上に楽しくて仕方がない事をして沢山笑っていて欲しい。
またあの旅館に行って今度は桜を見ような。
夏には海に行って服のままぶん投げるから2人でびしょびしょになろうな。
秋には美味い飯を腹一杯食って、雪の降る夜はまたくっ付いて動画を観よう。
一緒にしたい事が沢山ある。
全部して、そうしてまた約束を取り付けて何回も何回も繰り返そうな。
「あ、またリス来たぞ。
どんだけ遥登の事、好きなんだよ」
『ゲームですよ…』
今はまだ“いつか”の約束だが、きっと隣で沢山笑わすからもう少しだけ待っててくれ。
ともだちにシェアしよう!

