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第859話

やっぱり恋人の顔を見ると落ち着く。 パーツの1つひとつも配置も綺麗でドキドキするけれど、同時に胸が愛おしいとときめくんだ。 『ボランティア、最近はどうだ?』 「やっと名前と顔が一致してきました」 『大きな1歩だな。 遥登先生』 「正宗さんに言われると恐れ多いです……」 楽しそうに笑う長岡と同じ敬称で呼ばれるなんて恐れ多過ぎて胃の辺りがジクジクしてくる。 塾講師や家庭教師のバイトをしている友人を尊敬する程にだ。 だけど、子供達の“わかった!”の顔を見ると教師になりたいんだと再確認する。 長岡もこんな気持ちで教えてくれていたのだろうか。 ありふれた教室の風景が一層愛おしく思える。 懐かしく大切な記憶。 『今から慣れとけ。 教育実習いったら当たり前に先生って呼ばれんだぞ』 「今から緊張します」 『今からかよ。 でも、自信持て。 俺の自慢の生徒だぞ』 「はい」 ふにゃっと口角を緩めた三条は教育学部ではないので来年度、3回生になってから教育実習を行う。 今年度については秋に実習を行うと噂で聞いたがどうなるかは誰も分からない。 波が来てしまえば行えず、そうなった場合来年度に一緒に行うのだろうか。 考えだせばキリがない。 不安な事を数えだせば終わりが見えない。 だけど、そんな分からない未来の事なら明るい事を考えた方がすっと良い。 初任給とはいかないが、長岡と旅行に行く約束がある。 山菜の美味しい季節が良い。 それと、今度は一緒にアルコールも楽しむ。 長岡としたい事はうんと沢山あるんだ。 そっちを考えていたい。 隣でやわらかく微笑んでくれる恋人を想像して三条の口元が更に緩んだ。 『待ち遠しいな』 漣の様な声がスーッと胸に染み入った。

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