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第865話

ニュース番組のアナウンサーがまた明日と頭を下げる少し前、愛しい恋人から電話をしても構いませんか?と丁寧なメッセージが送られてきた。 そんなの当たり前だろと了承すれば、すぐに嬉しそうな顔をした三条が画面に写し出される。 ふわふわした顔はいつ見ても心の波を穏やかに沈め癒すばかりか、此方まで同じ顔にしてしまう。 「こんばんは」 『こんばんは。 夜分遅くにすみません。 もう寝るところでしたか?』 「大丈夫だ。 テレビ観てた」 平成の大エースを超えるか。 開幕9連勝をかけたマウンドは熱かった。 そんな話に花を咲かせていると三条の目線が時々逸れる。 いつも真っ直ぐ目を見てくる三条の珍しい姿。 折角自分通話しているのだからこっちを見て欲しい…なんて野暮だ。 三条の目に嬉しそうな色が滲むと真っ直ぐカメラを見た。 その顔の愛おしい事といったらない。 しあわせってこんな顔になんだなと此方までそれが伝わってる。 画面越しなのが悔しいが、そんな事忘れてしまう程心地良い空気が身を包んだ。 音もなく今日が終わる。 『正宗さん、誕生日おめでとうございます』 「ありがとう」 そして、音もなく今日がはじまった。 時計を気にしていた事くらい分かる。 だって、日付が変わって今日8月26日は29回目の誕生日だ。 律儀な恋人が顔を見たいと言ってくれ、どこかで期待していた。 やっぱり嬉しい。 何度祝われても嬉しいんだ。 それまではなんとも思ってなかったのに現金だな。 『今年も俺が1番です』 「俺は弟に譲ったけどな」 『正宗さんからは特別ですよ。 順番は関係ありません。 拗ねないでください』 世界中がこんな状況なのが嘘みたいにしあわせそうに笑うから本当にそうなんじゃないかと錯覚してしまう。 すべてが夢で、仕事から帰ってきたら三条が部屋で待っていてくれるんじゃないか。 そんな現実なら良かった。 「な、来年は年の数だけキスしてくれ」 『…それ、なんか色々混ざってますよ。 でも……はい。 します』 「楽しみだ」 『……俺もです』 はにかむ恋人もまたとても可愛い。

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