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第886話

麦茶を飲んでいた三条はふーと息を吐き出してからカメラに向かい合った。 『あの、正宗さん。 ……我が儘を、言っても良いでしょうか』 「うん? 言ってみ」 『あの、……あの、今週も会えますか…?』 ベッドに脚をのせて膝を抱えた三条は、控え目なお強請りをした。 いや、お強請りなんてものではない。 ただの確認だ。 これのどこが我が儘なんだ。 相変わらず遠慮ばかりだ。 「あぁ。 勿論」 『っ!』 先程まであんなに色気を振り放っていたとは思えないほど穏やかにふにゃにゃ笑う恋人。 長岡も同じ顔をする。 『ありがとうございます…っ』 「俺だって会いてぇんだよ。 我が儘なんかじゃねぇよ」 会わない事が愛だと言われても、それでも、近くにいたい。 一目で良いから会いたい。 勿論、三条や三条の家族を危険に晒したい訳ではないので感染者数が増えれば控えるが、そうでないのなら僅かな時間で良いから会いたい。 これは自分の我が儘だ。 『へへっ』 なのにな、こんな顔で笑うから嬉しくなる。 この思いまで両思いなんだと。 若い女の子ではないが、一緒だと嬉しい。 「いつもの神社に待ち合わせな」 『はいっ』 そう言えば三条は更に頬の筋肉を緩めた。 この顔に会えないなんて冗談は本当に勘弁して欲しい。

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