889 / 1502
第889話
向かい合うと三条はマスクで顔の半分を隠していても分かるやわらかな笑顔を浮かべた。
「正宗さん。
これ、誕生日プレゼントです」
珍しくリュックを担いでいるとは思っていたが、まさかプレゼントだとは思わなかった。
鞄から取り出されたそれを手渡され眉を下げる。
想像した重さより重みがあった。
重いからという訳ではないが安いものではない気がする。
「バイトも出来ねぇ状態で俺の誕生日なんか気にすんな…。
バイト出来ても気にすんな。
負担になる為に付き合ってる訳じゃねぇだろ」
「なんかじゃありませんよ。
俺にとって大切な人が生まれてきてくれた日ですよ。
それより、開けてみてください」
わくわくした顔に催促されプレゼントを開ける事にした。
この顔に弱いのを本人は知ってしているのかは分からないが、随分と扱いが上手くなった。
リボンを解きセロハンテープを丁寧に剥がし、取り出された箱にはコーヒーのイラスト。
「部屋に行けるようになったら…美味しいコーヒーが飲みたいです」
コーヒーセットだ。
はにかむ三条に、気持ちが溢れそうだ。
豆を挽きドリップした物は…そうだ、一緒に飲んだ事がなかった。
そうか。
まだお互いのはじめてがあるのか。
すごく嬉しい。
抱き締められないのが残念だ。
「勉強しとく」
「楽しみです」
「亀田先生より美味いの淹れられる様になりてぇな」
「すぐに上手になりそうです。
勉強して上手くなっていく過程もみたいです」
あんまり上手く淹れられなくても、それはそれで楽しい記憶になるだろう。
この子と居ればなんでもそうなる。
「すっげぇ嬉しい。
ありがとな、遥登」
「どういたしまして!」
ともだちにシェアしよう!

