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第890話

駐車場へと向かう道すがら、長岡は夜光虫の集まる自動販売機の前で歩みを止めた。 「遥登、好きなの選びな」 「いえ、自分で買いますから…」 「金入れたし落ちる前に、ほら」 「あ…、じゃあ、ありがとうございます」 既にお金が投入され、すべてのボタンが点灯していた。 どれにしようかさっと目を滑らせボタンを押す。 ガコンッと受け取り口にぶつかりながら転がってきたソレを取り出せば、ひんやりとして気持ちが良い。 「レモンシュカッシュか。 美味そうだな」 「美味しいですよ」 「んじゃ、同じのにしようかな」 「ありがとうございます」 「ん。 どういたしまして」 長岡も同じ物を購入すると、蝉が五月蠅い中を駐車場に向かってデートする。 夜は平等だ。 贅沢を言えば、もう少しだけ涼しくなってくれると嬉しい。 とにかく暑い。 ……だけど、隣を歩く恋人よ肌に貼り付くシャツの生々しさとかはすごくグッとくる。 時々顔に貼り付く髪を掻き上げるのも。 「そういえば、さっき猫に会ったんです。 猫の目ってなんで光るんですかね」 「あー、言われてみれば光るな。 蓬達は家の生活リズムに合わせて夜寝るからあんま見ねぇんだよな」 「賢い子ですね」 「だろ」 無邪気に笑う姿に胸がきゅぅっとする。 マスクをしてたってどんな顔で、どんな風に笑うか知っている。 やわらかくて綺麗に笑う顔も纏う空気も、とても心地よい。 「お、大胆だな」 「たまには俺だって頑張ります」 半歩近付き歩くデートはなんともしあわせだ。

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