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第894話
部屋の中の物全てが熱い。
和室や自室の窓を開けて、ドアも廊下の窓さえも全開で風が通っている筈なのにリビングから1歩外へ足を踏み出すと蒸風呂だ。
申し訳程度に入ってくる風は温風。
むわっとした空気が纏わり付き、二歩、三歩と歩くだけでじっとりと嫌な汗が背骨を伝ってパンツに染みていく。
うわ…
やば……
それもそうだ。
三条が暮らす町は県内最高気温の40度を記録している真っ只中。
もう風呂の温度だ。
人が安心して暮らせる気温ではない。
最高気温を更新しているとネットでもテレビでも言っていたが、まさかここまで熱が篭るとは。
朝から綾登と涼しいリビングで過ごしていたので余計暑く感じてしまう。
リビングに戻りたいが生憎行き先はトイレだ。
こればかりは我慢に限界がある。
トイレの室温も去る事ながら、捻った蛇口から出てくるお湯に玉の汗が滲む。
お湯が水に変わるのを待つ時間さえ洗面所に居たくない。
いや、そもそも待てば水は出てくるのだろうか。
ぬるま湯で手を濯いで早々にそこを出た。
小まめに水分を摂ってはいるが、こんなの摂っていても関係なく熱中症になってしまう。
昨年の気持ち悪さを忘れた訳ではない。
あんなのもう懲り懲りだとこまめに水分を摂っているが果たして効果はあるのだろうか。
リビングのドアを開けると冷たい空気が足を擽った。
天国…
玩具を散らかし大怪獣と化した三男は麦茶を美味しそうに飲んでいた。
「遥登もお代わりいる?」
腰を上げようとする母親を制しそのまま冷蔵庫へと向かう。
「自分でするから大丈夫。
あ、優登迎えに行って、一樹も送ってくる。
トイレ行くだけでやばい」
「分かった。
お金あげるから何か冷たい飲み物買っていってあげて」
「ん」
冷蔵庫に頭を突っ込みたい衝動を抑え、新たに注いだ麦茶を一息で煽る。
冷たい麦茶が身体の真ん中をスーッと通るのが気持ち良い。
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