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第898話
綾登は黒猫の友人の耳をかじりながら、令和最初の日に病院で撮った家族5人の写真をじっと見る。
忘れそうになるが、綾登も平成生まれだ。
「あーぅ、あー」
「なんて?」
「怒ってるのは分かるけど…」
困る兄弟に、母親が笑いながら答えを教えてくれた。
「自分が居ないって怒ってるんじゃないかな。
それかシシがいないって」
「なるほど」
「綾登は、ここにいるよ。
ほら、可愛いぞ」
「ぶーぅ」
それは赤ちゃんでしょ、とでも言わんばかりの顔で首を振る。
母親の言ってる事はあたっているらしい。
「綾登だよ。
俺、嘘言うか?」
「兄ちゃんが綾登に嘘言う事ないだろ?」
ぷっと頬を膨らませて胡座をかいた長男の脚の上に乗り上げてきた。
「なんで怒りながら俺の脚に座るんだよ」
「だっ!
だうっ!」
「はいはい。
分かったから、暴れんなって」
丁度……その、股間がグリグリされてて…。
さりげなく背中に手を入れて位置をずらしながらあやしていると、自動車の停車音がした。
程無くして、玄関のドアが開けられる音。
続いて父親の声が聞こえてきた。
「ただいま。
油と牛乳買ってきたよ」
「おかえりなさい。
ありがとう」
「綾登には、おやつのバナナ」
買い物から帰ってきた父親が買ってきてくれたおやつのお陰で末っ子のご機嫌は全回復した。
「なーな!」
「うん。
バナナ食おうな」
「きゃぁぁ!」
この暑さの中でも兄弟に似た食欲で小さな大怪獣は今日も元気だ。
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