900 / 1502

第900話

随分と寂れてしまった商店街を小走りで駆けていると目の前に見知った人がいた。 「よ。 遥登」 「正宗さん…」 いつもの様に神社へ行こうとした三条に声をかけたのはのは恋人。 これから会いに行く人だ。 目の前で、よ、とラフに手を上げヒラヒラと振る。 長岡は今日もすらりと長い腕を惜しげもなく見せ色気を纏っていた。 何度見ても、いつ見ても、格好良い。 とっとっと地面を蹴り隣に行くと長岡は満足気に1つ笑った。 「悪りぃ。 飲み物買ってたら遅くなった」 手には確かにペットボトルの入ったコンビニ袋が握られている。 神社はもう目の前だが、偶然会えた事がなんだか嬉しい。 女々しいと笑いたければ笑えば良い。 そんな事で長岡が笑ってくれるなら笑って欲しい。 「遥登を待たせなくて良かった。 んじゃ、今日はこのままデートしようか」 「はい」 隣に並ぶと、へへっと頬を緩めた。 そんな三条を見て長岡も嬉しそうに表情を緩める。 愛してると丸分かりの顔は三条だけが見られる特別なもの。 学校の生徒達は想像する事も出来ない様な良いものだ。 どっちが良い?とレモン味の炭酸水と桃味の清涼飲料水を差し出してきた。 三条が高校でよく飲んでいた清涼飲料水を指させば、どうぞと落ち着く声と共に冷たいそれが手渡される。 「いくらでしたか」 「良いって。 遥登だって買ってきてくれんだろ。 今日は俺の番」 ポケットに手を突っ込んだ三条を制す優しい言葉。 気負わない言葉選びが狡い。 もっともっと好きになる。 帰るのが寂しくなってしまう。 「…ありがとうございます。 じゃあ、いただきます」 「どうぞ」 長岡の愛車までの短いデートをゆっくりと楽しむ。

ともだちにシェアしよう!