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第901話
銭湯の横の駐車自には秋の花が季節を知らせていた。
暑くとも秋なのだと誇らしげだ。
長岡と気軽に会えなくなり春が過ぎ、夏が過ぎ、そうして秋を迎えようとしていた。
残酷な様に過ぎていく時間。
だが、確かに長岡と過ごした時間。
風にのって、良いにおいがしてくる。
「虫の声がしてきたな」
「そうですね。
先週はあんなに暑かったのに、もう秋なんですね」
「もう少し涼しくなったら、少しだけドライブに行こうか」
「え、良いんですか…」
「当たり前だろ。
感染者数が少ない時な。
あんま長くは出来ねぇけど少しだけ、そうだ紅葉見に行くか」
「はいっ」
長岡が自分を気遣ってくれている事を三条は理解している。
以前、通話中に心配なんだと言われたが、あの声は本物だった。
優しい人だから、遠慮ばかりしていればより心配をさせてしまう。
そんなのは嫌だ。
心優しい人ばかりが損をするような、そんな事はあってはいけない。
だけど、2人で─2人きりで過ごせるのがとても嬉しい。
こうして会いに来てくれる事がどれ程荒みそうな心を救ってくれているか。
「あっちのおっきい神社はちょっも遠いよな。
公園とかにあるの知ってるか?
俺も紅葉のある所どっか探しとくから…」
「嬉しいです」
三条から小指が絡められ、長岡は言葉を吐くのをやめた。
喋らなくとも三条の気持ちが伝わってくる。
こんなしあわせそうな顔をされれば長岡でなくともたまらないだろう。
愛なんて目に見えない。
だけど、目の前にあるのは確かに“愛”だ。
言葉の代わりに、小指を揺らした。
「へへ」
子供のように笑う三条が愛おしい。
何を擲ってでも守りたい。
最愛なんて言葉じゃ足りなくて、でもそれ以上の言葉がない。
この子の隣は息が出来る。
それが1番それを表す言葉なのかもしれない。
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