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第902話
車内は先程までの涼しさを残しており、ひんやりとした空気が肌に触れる。
そして、恋人のにおいで満ちていた。
しっとりと汗ばみ気持ち悪かった筈なのに空気が冷たいだけでそれは冷えるものへと変わる。
なんとも現金なものだ。
「涼しいです」
「さっきまで乗ってたからな。
ほら、手ぇ出しな」
手のひらを差し出せば携帯用のアルコールジェルがぷひゅっと可笑しな音と共に吐き出された。
その音を2人で笑いながらすりすりと刷り込む。
「遥登のケツからローションが垂れる時みてぇな音だな」
「そんな音っ、しませんよっ」
「しねぇか?
動画で確認しても良いけど」
「………………たまに、…するかもですから確認は大丈夫です」
ククッと喉の奥で笑われてしまった。
だって、長岡がケツの中を掻き回して空気がローションと混ざるから音がするだけだ。
それに、恋人のモノが大きいから括約筋が麻痺してしまい決して自分から好き好んで垂らしている訳ではない。
長岡がペットボトルの栓を切ると、それはプシュッと空気を吐き出した。
檸檬の微かなにおいが長岡のにおいに混ざる。
三条もそれに習うと、こちらは微かな桃のにおいがした。
「いただきます」
「ん。
どうぞ」
一口飲むつもりが気が付かないだけで喉が乾いていたらしくごくごくと飲んでしまう。
「良い飲みっぷりだな」
「すみません…。
喉が乾いてたみたいで…」
「謝る事なんかねぇよ。
美味そうに飲んでくれて嬉しいし、ちゃんと飲んで偉いな。
あ、まだ気温高けぇから熱中症だけは油断すんなよ」
「はい」
二十歳を越えた大学生に対し過保護だとは思うが、長岡らしくて嬉しいのは秘密。
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