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第906話
自宅のほぼ目の前で分かれ、その足で浴室へとやって来た三条は手を洗うより先に服の胸辺りのにおいを嗅いだ。
自分のにおいに混ざる恋人のにおい。
ふにゃっと頬の筋肉が緩んでしまう。
抱き締められた
俺も、抱き締めた
やっばい嬉しい
久し振りに恋人の体温を感じた身体はとても軽やかで、同意でセックスをし終えたあの日の様に風呂に入るのが勿体ない。
そういう訳にもいかないと解っていても気持ちはふわふわとシャボン玉の様に宙を浮く。
同時に強く寂しいと思うのだが、長岡が部屋に帰ったらビデオ通話をする約束までしてくれたので寂しがっている暇はない。
どうせなら元気な顔で話がしたい。
心配かけたくてそうする訳ではないんだ。
それに、長岡が帰宅し入浴─シャワーだろうが─を終えるまでに髪も乾かさなければ恋人は心配する。
折角正宗さんのにおいがするのに洗うの勿体ねぇな
でも、汗かいてるしウイルスも気になるし……
あーぁ、勿体ない…
身体に残るぬくもりさえ、ボディソープで上書くのは些か心残りだ。
借りたコートは本物には勝てない。
こんなにも心が喜ぶのはやっぱり本人なんだ。
べた惚れの自覚はある。
でも、あんな綺麗な人ならそれも頷けるだろ。
眉目秀麗を素でいく人。
それに、一応一目惚れだ。
入学式の日にはじめて長岡と会った瞬間惹かれた。
…………もっかいだけ
もう一度くんくんとそのにおいを堪能した。
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