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第913話
『早い段階でそれが解ったなら運が良いぞ。
気付けない奴も沢山いるんだ』
「はい。
沢山勉強します」
気付けただけ前に進めた。
小さくても嬉しい1歩だ。
そして思う。
担任の大きさと知識の深さ。
好奇心。
熱量。
「本当に知れば知る程、正宗さんの事を尊敬します。
近くに居過ぎて見えなかったのが悔しいです。
こんなに良いお手本他に知りませんよ」
『惚れ直してくれた?』
「…はい」
何度も何度も好きになる。
知らなかった1面が見える度に、胸がきゅぅっと甘酸っぱくときめくんだ。
男子大学が甘酸っぱいだのときめくだの気持ち悪いが、それを表す言葉を知らない。
もっと長岡を知りたい。
「何回も好きになります」
『じゃあ、良い子のはるちゃんにもっと好きになって貰える様に、これ』
「それは…?」
カメラに翳された小さな紙切れ。
いや、紙ではない。
もっとしっかりしていて…写真だろうか。
ぴらっと裏返されたそれに目を輝かせた。
「それは…っ!」
『高校ん時の俺の写真』
今より幼い顔立ちをしているが、とても綺麗に整っている。
恐ろしい程に出来上がった顔だ。
こんなのモテたに違いない。
今も十二分にモテてるけど。
『遥登が言ってた参考書取りにいくついでに持ってきた。
ひっさしぶりに柏と蓬にも会えたし行けて良かった』
「ありがとうございます。
元気でしたか」
『あぁ。
蓬なんて足の上で寝て帰らせねぇぞって…』
話の途中で長岡は笑いだした。
『遥登、視線がすげぇ写真にいってる』
「え、あ……すみません。
でも、すごく格好良くて……ずっと見てられます」
つい、視線がそちらに言ってしまうのは許して欲しい。
今の自分より幼い恋人だ。
決して追い越す事の出来ない歳だけに目にしっかりと焼き付けておきたい。
『かわいーく強請りしてくれたら写真撮って送るぞ』
思ってもいなかった発言に恋人と写真を交互に見てから頭をフル回転させた。
「正宗さん、その写真欲しいです。
俺の知らない頃の写真ください」
『えー、どうしよっかなぁ』
楽しそうにころころとした声で返答されてしまった。
では、本命。
「正宗さん、大好きです。
その……おかずに、するので………欲しいです」
『へぇ。
良いねぇ』
カシャッとシャッター音が聴こえてから数十秒後、傍らのスマホが震えた。
「っ!
ありがとうございます!」
『どういたしまして。
おかずにする時は一言連絡くれると嬉しい』
「……はい」
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