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第919話
此方を向いた三条を抱き締めたまま床に倒れると、くりくりした目が大きく自分を写した。
「っ!?」
「その顔見んのも久し振りだな」
「びっくりした…。
こんなに近くで見るのもです」
三条の手が控え目に背中へと回ってきた。
そして抱き締められる。
遥登だと解るすべてのものが愛おしい。
子供体温も清潔なにおいも、細い身体も。
こんなにも大切だと思う。
結果論でしかないが、会わないと決めて良かった。
この子とご家族が健康で本当に良かった。
肩口に顔を埋めさせる様に頭を抱き寄せた。
「遥登」
「はい?」
「遥登」
「はい」
存在を確認するように何度も名前を呼んだ。
出会った頃より低くなった声が返事をする。
随分と大人っぽくなり…いや、会えない間に本当に大人になった恋人。
この部屋に1人ではない。
ただ、それだけがこんなにも心地良い。
色が帰ってきた。
においも、温度も鮮やかに蘇る。
甘えた様に名前を何度も呼んで、返事を聴く。
遥登だ
そう思う以外の何者でもない。
「正宗さん」
「ん」
「正宗さん」
「ん。
俺だ」
骨と皮だけみたいな身体に触れ、子供みたいなあたたかな体温を感じ、低くなった声を聴く。
身体すべてで恋人を感じとる。
「正宗さん」
「んー、ふふ。
ははっ」
バカップルみたいな雰囲気につい、吹き出してしまった。
生きている。
俺は生きている。
なんでかそんな事を思った。
「遥登がいんのすげぇ嬉しい」
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