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第920話

髪を梳きながら恋人を甘やかす。 正確には長岡の方が甘やかされているのだが。 触れ合えなかった半年という時間が過ぎても癖は抜けない。 サラサラと溢れる髪が耳や項を擽って擽ったいのか肩を揺らす。 その度に清潔なにおいが濃くなるようだ。 「相変わらずほっせぇ髪だな」 やわらかく目を細める恋人に愛しい気持ちを伝える。 柏や蓬がそうだった。 見ていれば分かる愛情表現。 口で愛してる大好きだと言われるのも良いが、こうして身体全体で伝えてくれるのもまたそそる。 ただ、キスだけは我慢。 久し振りの濃いにおいに下半身も喜びそうだ。 それは恋人も同じだろう。 時々もぞ…っと脚の位置を変えている。 まぁ、車内のにおいで勃起していた位性欲盛んな年頃なのは重々承知しているが離れがたいんだ。 頭から耳、頬の辺りを撫でてその目をしっかりと目に焼き付ける。 「あ、そうだ。 写真やるな」 「本当に、良いんですか…?」 「良いよ。 自分のなんか見返さねぇし」 一際強く抱き締めてからそっと身体を離した。 あたたまった腹に空気が触れ寒くなるが、顔はしっかりと見られるので文句は言わない。 それに、三条は嬉しそうににこにこしながら待っている。 尻尾を大きくぶんぶんと振って、賢い大型犬みたいに。 この顔、すげぇ可愛いんだよな… あ゙ー…押し倒してぇ ローテーブルの上の本の間に挟んでおいたそれを引き抜いた。 村上が撮ったそれは当時流行っていたスライド式携帯で撮られたお世辞にも今のように画質が良いものではないが、当時の事を思い出す物だ。 だからと言って見返したりはしないので渡しても問題はない。 「あーぁ、本当ならキスさせんのになぁ」 なんて言った側から、細い腕がするりと巻き付いてきた。 そして三条の家の柔軟剤のにおい。 ドキッとしたのも束の間、首に顔を埋めると三条は猫がマーキングをするようにすりすりと額を擦り付けた。 細い髪が首元を擽り、あたたかな体温のお陰で三条のにおいがたつ。 控え目に言ってもこれはクる。 「今はこれが、精一杯です」 「勃つって…」 「俺は…………構いません…」 「お預け」 このまま押し倒して貪る事は簡単だ。 だけど、大切だから今はぐっと堪える。 「でも、ヤれる様になったら滅茶苦茶にして泣かすから覚悟しとけ」 「……はい」 しっかりと頷く恋人に本当に勃起しそうだ。

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