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第922話
さっぱりした身体でリュックの中からパーカーを取り出し、ドアを一瞥してから顔を埋めた。
正宗さんのにおいだ
すげぇ濃い
ふふっと笑みが溢れてしまうのも仕方がない。
コートを返した変わりに今さっきまで着ていたパーカーを借りてきた。
においが消えてしまい寂しかったのはお互い様だったらしい。
交換な、と手渡されたそれはとても良いにおいがする。
それに貸していた服にも長岡のにおいが染みている。
滅茶苦茶嬉しい
良いにおい
すっげぇ好き
誰も見ていないのを良い事に抱き締めベットに寝転がり堪能する。
あんなに抱き締めて貰ったというのに貪欲に恋人を求める身体は、肺いっぱいににおいを満喫してもし足りない。
顔を埋めて恋人に浸る。
そうだ
俺はどれ貸そう
今日のデートの時に私服を持ってきてくれれば良いと言われたが、洗濯をした物は自分のにおいと言うより洗濯洗剤のにおいだ。
かと言って、部屋着はなんだかにおいそうな気がする。
『遥登のにおいするやつな。
絶対な』
なんて子供みたいな念を押されたので迷ってしまう。
あ、今から着れば良いのか
一応シャワーを浴びたので自分のにおいしかしない。
一旦借りた服をベッドに残し、クローゼットから貸しても良い服を身繕い腕を通した。
だが、数時間でにおいは移るのだろうか。
たった数十分の逢い引きで、帰宅時に長岡のにおいを纏っていた事を三条は知らない。
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