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第925話

隣を歩くふわふわした笑顔。 マスクでその半分が隠れていても、どう笑うかなんて頭がしっかりと覚えている。 どんな風に笑うのか、どんな風に笑みを溢すのか。 マスクごときがそれを隠したってな。 「寒くねぇか?」 「大丈夫です。 俺、体温高いですから」 小指を絡めとると小さい子にするように揺らした。 此方を向いた綺麗な目に自分が映る。 そうすると、自分まで綺麗になれた様な錯覚を起こしてしまう。 この恋人の隣を歩くのに恥ずかしくない様にいたい。 真っ直ぐでいたい。 三条と出会う前の自分が聞いたら驚くだろうな。 だけど今は誇れる生き方だ。 「本当だ。 あったけぇ」 「へへ。 正宗さんの手は冷たくて気持ち良いです」 「冷たいじゃなくてか?」 「気持ち良いです。 俺、この手大好きです」 遠くでバイクが通る音がする。 野良猫が喧嘩して、田舎の方が賑やかだ。 音や色が沢山ある。 そんな地で育ったからこそ、三条はのびのびしていておおらかで穏やかなのだろう。 「そりゃ偶然だな。 俺もこのあったけぇ手が好きなんだよ」 一層深くなるしあわせそうな顔。 今日は沢山この顔が見られて良い日だ。 「あとな、むっつりな恋人も」 「正宗さんの…むっつりが移っただけです…」 「じゃあ、もっとやらしくしてやる」 ウイルスが世界を支配するまで、外でこんな時間を過ごせるなんて思いもしなかった。 そう考えるようになったのは恋人のお陰。

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