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第930話

それから、ボランティアの帰りに長岡の部屋へと足を伸ばす様になった。 感染者数によっては外デートも部屋でのデートも出来なくなるが、それでもほんの少し戻ってきた日常。 思わずおかえりと言いたくなる程嬉しい“当たり前”。 三条の大切な時間。 「遥登」 後ろから抱き付き首に顔を埋めている恋人は最近、特に疲れているらしい。 テスト製作に文化祭の代わりの総合発表会。 なにかと忙しそうだ。 授業時間を大幅に削られたというのに総合的学習の時間が必要だ、なんて嘘だろと思ったが本気でやるらしい。 抱き締める細くとも男のものだと分かる腕。 いつも優しく自分を抱き締めてくれる腕。 その手を握ると弟にするようにゆっくりと揺らした。 「遥登、すっげぇ好き」 「俺も大好きです」 愛情表現をきちんと身体で、言葉で表してくれる人だとは思っていたが、今日はずっとこうだ。 好きだと言いながら自分を確認するように何度も触れる。 その癖、自分からは抱き締めさせてくれず背中から抱き締めてくるんだ。 それもマスクは絶対に外すなと念を押して。 反する気持ちがぶつかり合っている。 長岡が心配だ。 「正宗さん、お疲れですね。 少し寝ますか?」 「こうしてたい」 「横にもなりませんか?」 「遥登となら横になる」 なんだか甘えて可愛い。 三条の長男心が擽られる。 これがバブみというやつか。 バブい…。 とはいえ、休める時に休んで欲しいのは本心だ。 だが、ベッドに連れていきたいのはやまやまだが三条の細腕では長岡を抱き上げるのは難しい。 火事場のなんとかが出ればいけるのだろうが、細身と言っても長身の分だけ体重もある。 190センチを越えていて50キロなんて事はない。 悔しいが平常時の状態では恋人を抱え上げる事はほぼ出来ない。 もっと筋トレをしなければ。 「ブランケットお借りますね」 「遥登が使えよ。 俺は遥登に抱き付いてるから大丈夫だ」 先回りをした発言はいつもの事だが、これは中々に重症な気がする。

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