932 / 1502
第932話
長岡の耳にマスクを引っ掛け三条はいつもの様に気の抜ける笑顔を称えた。
マスクをしている事以外、恋人はなにも変わっていない。
三条がそんな風に笑うから長岡はすべての荷物をすとん、と下ろした。
今はただの1人の人間だ。
長岡正宗以外の何者でもない。
三条はそれを許してくれる。
「一緒に少し寝ましょう。
お互いマスクをしていれば大丈夫です」
さ、と腕を取られ床に寝転がる。
自分が思っている以上に三条は大きくなった。
見た目だけでなく器も、心も、大きく深く豊かに。
ありふれた表現だが、海の様だ。
腹にブランケットをかけながら同じく寝転がる恋人の髪が額から溢れる。
サラサラとしていて真っ直ぐで、思わずそれに触れた。
「大胆だな。
恋人を誘うなんて遥登も大人になったな」
「今度は口にキスしちゃいますよ」
「生意気になって…」
「成長期ですから」
今日は有り難く甘えさせて貰おう。
何かあった時に全力で守れる様に休息も大切だと言われているような感覚に沈んでいく。
沈むのにこわくない。
寧ろ、あたたかくて穏やかで、そうだな例えるならベッドの中みたいだ。
毛布にくるまった時の安心感と良く似てる。
とても心地が良い。
これが恋人の力か。
「正宗さんのにおいを堪能出来ないのは勿体ないですね」
「そりゃ、俺の台詞だ。
この部屋には遥登のにおいが少なすぎる」
軽くなった身体に恋人の優しさが染みてくる。
ともだちにシェアしよう!

