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第944話
三条は自動車で来たので部屋でお別れだ。
スニーカーを履いた三条は振り返り、まだ帰りたくないと顔に大きく書いている。
本音を言えば長岡だって帰したくはない。
だが、名残惜しいが帰さない訳にもいかない。
「正宗さん、何かあったら連絡ください。
俺、まだ学生だし年下だし頼りないかもしれないですけど、一緒に悩む事は出来ます」
「頼ってるつもりだけどな」
「つもりじゃ駄目です」
「ん。
じゃあ、頼りにしようかな」
「かな、じゃ寂しいですよ」
「分かった。
ちゃんと頼るよ。
相談する。
それと、交換条件じゃねぇけど、遥登も頼ってくれよ」
「俺は十分甘えて…わ、わ……」
帽子の上から形の良い頭を撫でくり回した。
今はこんな最低限の触れ合いだけしか出来ないが、それでも半年前を思い出せばこんなに近くに居れる事を喜ばなければ勿体ない。
やっと部屋でも会える様になったんだしな。
「もっと甘やかせろ。
俺の楽しみだぞ」
孫を可愛がる祖父母の様だと笑いたければ笑えば良い。
三条を甘やかすのは特権だ。
他の誰にも譲りたくない。
「今日は、ほんとにありがとな。
元気出た」
「また勉強してきます」
「うーん」
本当に末恐ろしい恋人だ。
苦く笑いながら指の背で、すりっと頬を撫でた。
「?」
「一瞬だけ」
出会った頃の身長差のまま、ほんの一瞬だけぎゅっと抱き締めた。
本当にありがとう。
その優しさのお陰で元気が出た。
また頑張る事が出来る。
こんな事に負けてたまるかよ。
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