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第948話

夕食の良いにおいが鼻腔を擽る。 出汁のにおいに綾登は今日の献立が分かるのかにこにこと上機嫌。 早く食べたいとばかり手洗いを済ませ良い子に椅子に座るいじらしさも兄の心を掴む。 世界で1番可愛い。 末っ子の目の前に母親が皿を置くと大きく口を開けて笑った。 ころころと鈴が転がるような可愛らしい声に家中が嬉しそうに明るくなる。 きっと今日の夕飯が何か知っているのだろう。 だから、さっきもパイを食べるのを止められたのかも知れない。 「あー!」 「今日は小田巻き蒸しだよ。 うどんも入ってるんだよ」 「うーん!」 にこにことしていた綾登は差し出された茶碗の中を覗き込み、うどんがない事に気が付た。 途端に落ち込んだ顔をする。 すごく分かりやすい。 そして、すごく可愛い。 茶碗蒸しも好きなはずだが、すっかりうどんの口になってしまったのか落胆が凄い。 思わず笑ってしまう。 「すげぇ顔してる」 「綾登、茶碗蒸しの中にうどんもあるんだよ。 ほら」 三条が自分の分のそれを崩し中からうどんを取り出して見せると、くりくりした目はキラッキラっと輝いた。 「うっんっ!!」 力いっぱい喋るので、椅子からケツが浮いた。 こんな小さな身体だがパワフルだ。 だが、その気持ちは分かる。 うどんに茶碗蒸し。 どちらも大好きな綾登にとって最高の食べ物だろう。 「茶碗蒸しもうどんも好きだもんね」 へへぇーと笑い手をぱちんっと合わせた。 「いー、まっ!まっ!」 いつの間にかいただきますに近い言葉を言えるようになった末弟は元気に挨拶をした。

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