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第949話

小さなスプーンでやわらかい茶碗蒸しを上手に掬い口に運ぶ。 例え溢す量の方が多くても、自分でしたいのなら子供の気持ちを優先してくれる両親は微笑ましく見守っていた。 ぼろぼろと溢れるそれらを受け止めてくれるエプロンにも感謝。 「うめぇ」 「めー!」 「綾登、美味しいな」 「んっ!」 自分の言葉を真似した三男に、優登は言葉を言い直した。 タジタジだなと美味そうな肉を口に入れる。 唐辛子と山椒がピリリと効いて食欲を刺激する。 「兄ちゃん、それ美味い?」 「うん。 辛くて美味い」 「んーま?」 「綾登が食べたらびっくりする味。 そっちの方が綾登の口には合うよ」 父親も兄弟と同じ物を─揚げた鶏肉に甘辛いソースを絡めた物─口に放った。 「なんか…今日のは一段と刺激的な味だな」 「あぁ、今日のは優登が作ったから。 山椒振ってた」 「ストレス発散には辛い方が良いだろ」 「綾登はこっちの辛くないの食べようね。 フォークで取れる?」 「んっ! ………んんっ」 転がるお肉に悪戦苦闘し漸く突き刺せたそれを口に入れると美味しい!とばかりの顔をする。 一々美味しそうに食べるのが本当に可愛い。 ベビーサインをし美味しいと伝えると次男は沢山食えよと返した。 ホルモンバランスのせいで気持ちが不安定でも弟の事はちゃんとみているし、言葉も真似をするので直すようにしたりいじらしい。 「あーん」 「良いよ。 綾登が食えって」 「あーっ!」 「…あ」 ブロッコリーを食べさせ満足そうに笑う弟に対して優しい顔をする。 この反抗期ですといった態度が可愛いんだ。 ニヤニヤしそうなのを堪え、次の肉を口にする。 「んじゃ、かまぼこと交換な」 「あっと」 茶碗蒸しの中から綾登でも分かるキャラクターの蒲鉾を貰い、嬉しそうに母親に見せた。 そうやって嬉しい事を分けあえたら、もっと嬉しくなると分かるのだろうか。 気が付いたらもう1歳半と14歳。 大きな歳の差なんて関係なくちゃんと兄弟だ。 「うーう」 「俺にもくれんの? 嬉しいなぁ」 家の中は弟達のお陰で明るくて居心地が良い。

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