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第950話

ソースの香ばしいにおいは画面から伝わって来ない。 今はそれで良かった。 だって… 『ははっ、すげぇ腹鳴ってんな。 今日も元気で安心だよ』 腹の虫がやばい程鳴っているから。 「いやしくてすみません…」 『いやしくなんかねぇよ。 餌付け大成功じゃねぇか』 眉を下げながら麦茶を飲んで腹を落ち着けようとするが、舌が長岡の作る焼きそばの味を覚えていて頭を刺激する。 美味しいよな。 美味しいんだ。 そんなの俺が1番よく知っている。 中華麺のもちっとした食感と野菜の甘味のを包む香ばしいソース。 もやしがちょっとしゃきしゃきしてるのがすっごい美味しい。 目玉焼きは半熟とろとろで箸をぶつけただけでとろぉっと黄色を溢れさせる。 それを絡めた麺はまた1段と美味くて困る。 何が困るって、1人暮らしの長岡の食費が大変な事になってしまう。 「においまで届くようになったら拷問ですね」 『そうだな。 良い事ばっかではねぇな』 飯テロだなと楽しそうな顔をする恋人に安堵した。 今日も元気そうで良かった。 あの日から長岡の晩飯の時間に通話を繋げる回数が増えた。 別に食事の時だけではないのだが、一緒の方が美味しいからそうしている。 食事が終わり本を読み、入浴し、勉強をしたりテレビを観たり。 ただ、同じ時間を共有出来る事が今はとても嬉しい。 それに少しの変化も気になる。 あんな長岡を見るのははじめだった。 世界中が疲弊しているが長岡の事だから生徒を最優先に考えているのだろう。 自分の事に本当に興味がない人だと思う。 だからこうして顔を見ながら通話をする事が出来る無料アプリには感謝でいっぱいだ。

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