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第958話
学童も暖房を焚きはじめた。
雪は降っていないが室外は空気が冷たく、室内のあたたかさはやる気を削ぐ。
とはいえ、ボランティアはしっかりとしなければならない。
「遥登先生、どうして勉強するの?」
ドリルを解いていた子供からの唐突の質問。
子供なら1度は思う、よくある疑問だ。
「うん?
そうだなぁ。
勉強をすると沢山の事が自分で選べるからかな」
「そうなの?」
「それに、楽しくなります。
例えば、絵を描く時に赤と青と黄色の絵の具しかなくても色を混ぜれば沢山の絵が描けます。
混ぜるって事を知らなければ少しの絵しか描けません。
どっちがより楽しいですか?」
「沢山描ける方が楽しい」
「だからかな。
でも、知らなくても絵を描くのは楽しいよね」
沢山の選択肢があった方が楽しくなる。
勿論それで悩む事だってある。
でも、どちらがより楽しいか自分で選択出来るなら選びたい。
あの時、教師達に押し付けられた多くの選択肢。
自分で選択し、決めた今の道。
例え茨の道でも“この道”が良いんだ。
きっと、いつか分かるよと微笑むが、本人は渋い顔をしている。
「でも、兄ちゃんは数学は使わないって」
「お兄さんが使わなくても、他の人は使うからなぁ。
古典って…分からないよね。
えーと、日本語とあそぼの難しい言葉は分かる?
百人一首とか。
それはね、吉田は使わなかったけど俺は使うよ」
「人それぞれ?」
「そう。
しかも、同じ学校じゃないと吉田と友達になれなかったから、俺は運が良いね」
「うんっ」
何かを決めるのに遅いも早いもない。
じっくり決めても、直感で決めても良い。
ただ、自分が決めたからといって誰かを攻撃してはいけない。
意味がないと見下したり卑下したり、そんなのはとても残念な事だ。
誰かを傷付け、きっといつか自分にも返ってくる。
この子達がそうならない様に、新型ウイルスの世代だと言われない様に出来る人が出来る事をする。
ただ、それだけだ。
その為に三条は今日も子供達と勉強をする。
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