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第961話

“自分”のマグカップにコーヒーが注がれ、砂糖と牛乳が足された。 たったそれだけの事がすごく嬉しい。 更に氷を2つ入れてもらい“いつも”のコーヒーが出来た。 「お待ちどうさま」 「ありがとうございます」 氷も入っていて小さくなったそれが今にも溶けそうな大きさで浮いている。 もう少し冷ましたいところだが、味が気になる。 行儀悪く立ったままそれに口を付けた。 「いただきます」 あたためられたマグが熱いのでついふーっと息を吹きかけ冷ますが、舌が火傷する程の温度ではなかった。 「美味い…。 美味しいです」 牛乳を入れていてもコーヒーの香ばしい良いにおいが口にふわっと広がり、微かな苦さもクドくない。 甘味も牛乳の量も好みでとても美味しい。 これは牛乳と砂糖の入っていない物の味も気になる。 「だろ。 勉強したんだぞ」 釣り戸棚の扉を開けるとコーヒーの本が鎮座していた。 それを見て三条は穏やかに頷く。 誕生日プレゼントをこんなに喜んで貰えて此方まで嬉しい。 しかも、勉強してより良い物を作ろうとしてれた。 自分の気持ちを受け取るだけではなく何倍にも大きくしてくれる。 ふにゃふにゃになる頬を隠さず、また一口飲んだ。 「ここにゼラチン入れて、バニラアイスで冷やして作るコーヒーゼリーも美味そうだよな」 「ギルティですね」 「ネットで見た。 遥登すげぇ好きそうだなって」 「好きです」 「んじゃ、それは雪が降ったら作ろうか。 その方が楽しみだろ」 上着を着てベランダで食えば冷えるしなと付け加える恋人の穏やかな顔に胸がきゅぅっとした。 「楽しみです!」 「俺も、すげぇ楽しみ」

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