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第963話
「あの…、お邪魔しました」
「またすぐ会いに行くだろ」
それはそれ、これはこれだ。
やっぱり帰りは寂しくなる。
マスクをしっかりとし直していても寂しそうなのが見てわかる。
離れがたいのは三条だけではないと理解しても我が儘はいけないと思い、それを口に出さない。
「帰ったら一旦シャワー浴びんだよな?」
「え、はい」
長い時間、外出していた時は帰宅しすぐにシャワーを浴びている。
幼い弟の為だけではなく自分の為にも。
そうする事で少しでも安全だと思える、安心だと思える事は今の心には大切な事。
健康も大切だが同じだけ精神面も大切だ。
心が弱ればその隙を衝かれてしまう。
それでは、長岡と本当に会えなくなってしまうから。
「遥登、少しだけ」
同じくマスクをした長岡は、三条の肩を抱き寄せた。
ドキッとするより早く良いいおいに包まれる。
出会った頃のような慎重差がとても懐かしい。
この頃に戻れたらどんなに良いだろうか。
普通に抱き締められ、キスをして、食事も一緒に出来て。
当たり前が当たり前だった。
とても恋しい当たり前。
さ迷っていた手がおどおどと長岡の背中に回った。
それを長岡は嬉しいと思う。
「この身長差、懐かしいな。
こんなデカくなるとは思わなかった。
ほんと羨ましい成長期だな」
「正宗さんの方が大きいじゃないですか」
「追い越すなよ」
「追い越したら正宗さんが背伸びしてキスしてください」
「生意気になって」
一際強く抱き締められ身体が離れる。
名残惜しいとばかりにゆっくりと。
「今日は早めに行くな。
また、連絡するから」
「はい」
キャップの上から頭を撫でられ、漸く帰る気力が沸いてきた。
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