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第964話

本当に早く部屋を出たと連絡を貰い、いつもより早く家を抜け出た。 ひんやりする空気が頬を撫でる。 撫でられるなら長岡が良いななんて思いながらも曲がり角を曲がり角を真っ直ぐ進む。 カーテンの隙間から漏れる明かりもいつもより多く、本当に早い時間なんだとぼんやり思った。 そんな事より早く長岡に会いたい。 さっきも会ったろと笑われたって会いたいんだ。 自然と早くなる足取りで商店街へと入っていった。 半分以上の店は閉店しシャッター街と化してきたがそれでも祭事には人の集まる場所だった。 たった半年前の事だと思っていたがこんな小さな町にも影響は出ている。 ギリギリだった店舗はそっと幕を降ろした。 都会も田舎も関係なく色んなものを飲み込んだ。 とは言え春には誰もいなかった路上市も再開しぽつりぽつりと人出が増えてきた。 だが、以前に比べたら人が減ったのは事実。 こんなに静まり返っては商売繁盛の神様も昼寝が捗るだろう。 幼い頃と比べれば寂しくなったが、それでも長岡との外デートで楽しい思い出も増えたのは確かだ。 大切な日常が奪われた。 だけど、そのお陰で外でデートが出来るんだか複雑だ。 悲しいのか嬉しいのか選ぶ事は出来ない。 それが苦しい。 「あ、正宗さんっ」 「お、こんばんは」 「こんばんは」 神社の前で出会い、小走りで駆け寄ると寒くねぇかと聴かれた。 パーカーにいつものボトムス。 薄手のアウター。 キャップもいつもと同じ。 夜になり気温が下がった事を気にしての事だ。 自分だっていつもと殆んど同じ格好をしているのに。 本当に自分の事に興味のない人だ。 「大丈夫です。 正宗さんこそ寒くないですか?」 「大丈夫だよ。 まだ若けぇからな。 んじゃ、今日はどこに行こうか」 「正宗さんはどこに行きたいですか? まだ案内してない所で面白い所ありますかね」 自然と絡まる小指にふわふわと花を咲かせながら夜に溶ける。

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