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第991話

長岡との逢い引きに足取りが弾む。 僅かな時間でも嬉しいのに今日も少し早い時間から会える。 それが、ただただ嬉しい。 神社に顔を出すと、すらりとした影が外灯の下に伸びていた。 砂利を踏む音に相手も三条に気が付く。 途端にパッと笑顔がよりやわらかく愛おしそうになった。 「お待たせし……まし、た」 「なんだ…」 パンッと空気を割く破裂音。 長岡と顔を見合せ動きを止めた。 太鼓の様なこの音。 今年は諦めていたが、まさか。 顔を見合わせ空を伺う。 2人共この音がなにか検討が付いている。 だけど、まさかと思う方が大きい。 長岡と共に神社脇の小道から石階段をあがり、土手へと上がると疎らに花火が打ち上がっていた。 隣町から溢れる大花はとても美しく咲き誇っている。 「花火…」 「あぁ。 綺麗だな」 三密を避け予告なしの打ち上げ花火。 晩秋の花火はまた風流だ。 冷たい空気はすっきりと澄んでいて遠くの花火がより美しく見える。 それに蚊もいない。 ただ美しいと楽しめる。 恋人と外で見上げる花火にふわふわ笑う三条と、それを見て嬉しそうに口角を上げている長岡を時々走行車が照すが皆花火の見物客だと気にも止めない。 それは、道路の反対側に居る近隣住民もそうだ。 他人より花火。 嬉しそうな、楽しそうな声は皆同じ方向を見ていた。 「っ!」 隣を見ると唇の前に人差し指が差し出された。 頷く代わりに今絡められた小指を握り返す。 夜は平等だ。 暗闇は男も女もそうじゃないも、すべてを隠してくれる。 2人きりにしてくれる。 近所から出てき人がまた1人と増えても、誰も気付かないだろう。 夜と塀から伸びる柿の木の影が2人を守ってくれている。

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