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第992話

花火を見上げる恋人は、とても清らかだ。 まるで本人の心のように穏やかで素直でおおらかで。 そんな内面が表情として表わしているように頬笑む。 つられて頬が緩んでしまうんだ。 パンッと咲き誇る、あの天の花より此方の方がずっと美しい。 視線に気が付いた三条はいつものようにふにゃっと笑い、綺麗ですねと呟いた。 そうだなと頷けば、嬉しそうに前髪を揺らす。 こういう何気ない瞬間が愛おしい。 何気ない事が大切なんだと思い知った。 また視線を上へと向けキラキラした目で花を見る。 もし、ウイルスが蔓延していなければこんな風に手を繋いで花火を見上げるなんて出来なかっただろう。 それも三条の生まれ育った町で。 悔しいけれどな。 外で手を繋ぐ事だってそうだ。 憎いと思いつつも、こうして新しい機会を貰えた事が複雑だ。 目の前の道路をバイクが通り過ぎるとライトの跡が伸びるよを三条は目で追う。 そうしてまた花をみる。 「一緒に見れて良かった」 嬉しそうな返事と共に小指が揺れた。

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