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第994話

上着を羽織り、スリーパーを着ている息子は更にブランケットにくるんでサンダルを突っ掛け外へと出た。 マスクも忘れずに。 晩秋の空気はひんやりとしていて嫌でも目が覚める。 「綾登は毎日、美月ちゃんとなにしてんだ?」 「だー」 「美月ちゃんと居ると楽しいよなぁ。 俺も一緒に遊びたいなぁって思ってるんだよ」 「ぶっ、ぶっ」 「うん。 またお出掛けしような」 兄達と話すお陰か言葉が早い。 それだけ一緒に過ごす時間があるという事は良い児とになのかは判断しにくい。 こんな風に新型ウイルスが流行しなければ2人共友人や大切な人と過ごしたはずだ。 それを出来ない様にしたウイルスは憎い。 憎いが、だからこそこうした時間がとれていると思うと複雑だ。 「綾登と散歩出来て嬉しいな」 遥登は小さい頃から今の面影があり、沢山食べて沢山寝てあまり泣かない子だった。 優登も沢山食べて沢山寝て、沢山泣く、自分の気持ちに正直な子だった。 綾登はそれに、力強さと甘えが加わった子。 三者三様の幼少期はどの子も性格がでていて面白い。 勿論、子供とはいえ1人の人を育てるのは大変だ。 自分だって出来た人間ではない。 そんな奴が人の親になるなんて責任が重いとさえ思った。 けれど、大好きな人とその子をはじめて腕に抱いた時に一緒に歩いていけば良いんだと気が付いた。 3人で家族なんだから。 そうして、家族は4人になり5人なった。 自分を父親にしてくれたのは、3人の息子達。 全力で守ると決めたのはもう20年も前の話。 昨日のようで、ずっと前のこと。 「あ!」 「とんぼだね。 知ってるの?」 蜻蛉を指差し、舌足らずな声でばばーいと言いながらバイバイと手を降った。 1歳になって殆んどどこへも出掛けれられていない息子が少しでも楽しいと思ってくれる様にしたい。 せめて、それ位は親らしい事を。 やわらかな頭にこつんと自分のそれをぶつけ、遠くに飛んでいくとんぼを見送った。

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