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第996話

自宅前まで帰ってくると室内から漂う美味そうなにおいに、綾登は気が付いた。 「んーまっ、んーまっ」 「腹減ったな。 ただいま」 「おかえりなさい。 朝ご飯出来てるよ」 「綾登、ご飯だって嬉しいな」 「んーんーっ!」 食べたいと手を伸ばすが、まずは手洗いうがい。 冷たい水でも遊びだと思って楽しそうに触るので、これといった苦労は…… 「綾登、そんなばちゃばちゃしたら父さんのパジャマがびしょ濡れだよ…」 「へっへへぇ」 これ位だ。 石鹸をつけた手で小さな手を包んで泡を渡すとそれも飛ばしてきた。 嫌がらないだけ利口だ。 しっかりと濯いでピカピカになった手を母親に翳して満足そうな息子をうつ伏せになるように抱き上げ、上の息子にもしたようにリビングを一周する。 兄達も喜んでくれたそれは末っ子も楽しんでくれる。 「机まで飛行機で行くぞ。 ぶーん」 「きゃぁぁ!」 朝から賑かな食卓に母親は目を細めた。 沢山の我慢を強いられる時でも、子供が笑ってくれる事が嬉しい。 そして、それが目の前に広がっているのがこんなにもしあわせだと。 「はい、着席」 「へっ、へへっ。 へへぇ」 朝からこんな満面の笑みが見られるのだから親というのは特役かもしれない。

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