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第999話
そうして、あっという間に季節は冬をむかえた。
12月になり、世間はクリスマスの話で盛り上がる……筈だが、今年はそれも薄い。
デートスポット紹介の代わりにお家パーティーや、デリバリーの話が盛り上がっていた。
とは言え、三条の暮らす町ではウーパーイーツなんて便利な物は使用圏外。
美味そうだと眺めておしまいだ。
長岡の住む辺りは利用圏内らしいが、恋人は見た目の華やかさかとは無縁の生活をしている。
仕事帰りにコンビニやスーパーマーケットに寄ってお弁当を買うか、簡単に自炊をするか。
カップ麺もよく食べているが、本人は中年太りは嫌だと最近は減らしている。
このご時世でなくとも外食は殆んどしないと言っていた。
あんな綺麗な顔の人が毎日自炊をするなんて想像しにくいが、長岡の生活をよく知っている三条には容易に思い出せる景色だ。
「うー、きぃ」
「惜しい。
雪。
あとで少しだけ庭に行くか」
ちらちらと降る雪が冬だと強く意識させる。
そして、炬燵がやっぱり人を駄目にする。
トイレに行くのも億劫になる季節だ。
綾登もすっかり魅了されている。
「ちゃーちゃ」
「飲む?」
「ん」
スポロウマグからごくごくと喉を鳴らす隣で、もう少しあたたかい物を飲む。
「こえ」
「蜜柑も食べるのか?
さっきおやつにチーズ食べたろ」
「んー」
両手で蜜柑を握りじっと見詰め、視線を兄にやり、また蜜柑を見た。
幼児特有のぷくっとした頬が可愛い。
つつくとくりくりした目が此方を捉えた。
「そんな可愛い顔して」
「あい!」
駄目押しとばかりにとびっきりの笑顔で蜜柑を差し出されて、その可愛さにきゅぅっと胸を弾ませた。
三条にもしっかりと父親の溺愛の血が流れている。
手渡された蜜柑の皮を向いて、小さく分けたそれを返した。
嬉しそうに蜜柑を口に運ぶ末っ子はベビーサインをしながら喜んでくれる。
「んま、ま」
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