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第1002話

車内に乗り込む前に雪を払ったが体温で溶けたそれが首の後ろを伝った。 ぞわりとするのは冷たいからか、はたまた三条が敏感だからか。 濡れたそこを拭おうとすると、すぐに前からあっためるからなと声がかかる。 「寒くねぇか?」 「はい。 マフラーのお陰であったかいです」 目元をやわらげた長岡はすぐに元の顔を繕げ、やっぱり暑かっただけだと付け加えた。 隠したってその優しさはきちんと伝わっているのに。 だけど、そういう長岡らしいところが大好きだ。 「それに良いにおいもします」 「マスクで分かんねぇだろ」 「分かりますよ。 正宗さんのにおいです」 「またそうやって誘う。 発展場行くか?」 「な、んでそうなるんですか…」 「俺の理性が弱いから」 新型ウイルスの話が三条の耳に入らないようオーディオのチャンネルを変える横顔が、ゆっくりと此方を向くととても綺麗な目に自分が捉えられる。 綺麗に整ったパーツの一つ一つからさえ愛情が滲み出ていた。 今は不要に触れられはしないがその体温さえこの身体も頭もしっかりと覚えている。 だから、まだ我慢出来る。 「でも、ほんとすげぇ色っぽくなったし格好良くなって。 成長期すげぇな」 「そんな事は…」 「なったろ。 自慢の恋人だぞ」 なんて事のないように褒められ三条は赤くなった顔をマスクとマフラーで隠した。

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