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第1004話

手を握り他愛もない話をしている内に三条の顔色は戻っていった。 それでもどこか不安そうな顔をした三条と別れるのは後ろ髪を引かれる思いだったが三条は家を抜け出て来ている。 時間になれば帰すほかない。 部屋へと帰ってきた長岡は手洗いうがいを済ませ、寝室へと入っていった。 恋人からのプレゼントのタイピンやA組が卒業式に贈ってくれたネクタイが置かれた本棚の一角から“それ”を手に取る。 小さくて手のひらにのるのに重みがある。 いや、物理的には軽いのだが。 それを開き中を見詰める。 他人に興味のない自分でさえしんどいと思う今、感受性の豊かな三条なら尚の事だ。 CMまで気が回らなかったのは完全にミスだ… しかもキスシーンってな 俺だって濃厚接触してぇっての 元であっても、生徒と教師の関係は変える事は出来ない。 長岡は現職、三条はそれを目標として勉学に励んでいる最中。 卒業したといってもリスキーな関係には変わりない。 この関係を後悔した事はないが悔しいと思う事はある。 きっと三条もそうだろう。 『マフラー、ありがとうございました。 すごくあったかかったです』 『そりゃ良かった。 俺も暑かったから助かったよ』 なんてにこにこした顔で言っていたが、あの笑顔は色んなものを隠してしまう。 4年も一緒に多くの時間を過ごしていれば隠している事くらいは分かる。 手の中の覚悟。 生き方を変えてくれた三条。 それを元の場所に置くとシャワーを浴びに浴室へと向かった。

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