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第1016話
歯磨きと洗顔を済ませタオルで顔を拭い水気をとる。
ふわふわしたタオルからも長岡のにおいがしてたまらない。
顔を埋めていた堪能したいが、隣には長岡本人がいるのでやめておこう。
隣にいるならタオルより本人の方が良い。
一瞥すると濡れた前髪を邪魔そうに手櫛で解している。
「ん?」
「あ、いえ…」
「遥登」
綺麗な顔が近付いてきて思わず身構えてしまった。
意識してますと言わんばかりに肩を揺らし顎を引いてしまう。
そんな三条の目を覗き込んで、長岡は穏やかに問いた。
「嫌か?」
「違います…っ」
「緊張してる?」
「……はい。
なんか、すごく恥ずかしくて…すごくドキドキします」
大きくて冷たい手が、そっと頬に触れる。
水に触れていたからしっとりしていていつもより冷たくて気持ちが良い。
思わず自ら頬を擦り寄せてしまい、ハッとした。
その手を見てから本人へと視線を移せば恋人は嬉しそうに微笑んだ。
胸がきゅぅっと甘酸っぱくときめく。
大学男子が甘酸っぱいだのときめくだのと思うかも知れないが、この顔には勝てない。
女々しくても良いや。
「ほんと可愛い奴。
そういうとこも、すげぇ好き」
「…ん」
触れるだけのキス。
だけど、何ヵ月も出来なかったキスだ。
ただキスをされただけなのに泣きたくなる。
あれは、……あれが夢だったんだ。
自分の都合の良い様に解釈し気持ちの良いキスに目を閉じた。
唇を食む長岡のそれが気持ち良い。
「ぁ……」
離れていく唇を無意識に追い掛けた。
「もっと?」
「はい…」
「良いよ、沢山しような」
塗れた唇を指で拭われ思わず噛めばいやらしさを含んだ目に自分が映っているのが見えた。
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