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第1018話

いつも通りに本を読んでコーヒーを飲んで同じ時間を過ごしていく。 こういうのが贅沢だと強く思う。 また1枚ページを捲るとインクのにおいが濃く香った。 ソファに横になっている長岡の方からも髪を捲る音がする。 物語は中盤に差し掛かり、良いところがはじまる前に口の中を湿らせようとコーヒーを口に含んだ。 集中して読み耽ってしまうと水分を摂るのを忘れてしまうからだ。 そんな時、低くて落ち着く声が名前を呼んだ。 「遥登、腹が寒みぃな」 「はい」 腹にくっ付けば愛情を滲ませる綺麗な目が細められ、髪を梳くように撫でられる。 この大きくて冷たい手に撫でられるのが大好きだ。 なんて気持ちが良いんだろう。 「あったけぇ。 実は遥登が一段落すんの待ってた」 「声、かけてくれれば良かったのに」 「だって、続き気になんだろ」 「へへ」 「今日はきゅーる貰う蓬より甘えてくるな」 「人間だと、うざいですか…?」 「まさか。 遥登にされるとたまんねぇって」 何度もキスをして、においを身体に纏ってご機嫌にならない方がどうかしている。 ふにゃっと頬を緩めて男の胸に頬をくっ付けた。 心臓の音がする。 生きている音だ。 自分のそれと混ざりあえれば良いな、なんて子供みたいな事を思う。 そうしても髪に触れる手は止まらない。 サラサラと手から零れる髪の手触りを楽しんだり、かと思えば目にかかる髪を払ってくれたり。 「居心地の良い場所から動かないところは柏そっくり」 「光栄です」 なんて言うが、その姿は犬だなと長岡は思う。 尻尾を大きく揺らし愛らしく、従順で利口で人懐っこくて。 例えるなら猫より犬だろう。 「あったかいですか?」 「ん、やっぱ子供体温はあったけぇ。 それにキスもしてくれるし最高」 「してないですよ?」 「これからすんだよ」 ちゅっと額にやわらかいものが触れ、三条も首を伸ばした。

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