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第1059話
雪を踏む音に気が付いた恋人は、すぐに自身を見付けると微笑んだ。
「遥登」
「正宗さん。
こんばんは」
「こんばんは。
ほら、来い」
腕を広げられ三条はおずおずと近付いていく。
「特別な」
腕をひかれ、更に近付くとぎゅぅっと抱き締められた。
若者が感染を拡げていると言われている中で、その“若者”で“公務員”の長岡が背負っているモノを理解出来ない程子供ではない。
それでも、今はこの体温に甘えたかった。
夢ではない、この酷い現実の恋人に。
脇腹に手を伸ばし、首─というより長岡のマフラー─に顔を埋めた。
長岡の良いにおいがする。
たったそれだけの事が、こんなにも胸に染みてきた。
鼻の奥がツンとするのを必死に堪える。
正宗さんだ
あったかい…
「今日は素直で更に良い子だな」
「…来てくれて、ありがとうございます」
「ん?
俺が会いてぇって言ったんだろ。
こっちこそ会いに来てくれて、ありがとな」
髪を梳かれ、その手の気持ち良さに目を閉じた。
薄い胸から伝わってくる心音が混ざりあって1つになれたら良いななんて子供みたいな事を本気で思う。
ずっと2人でいたい。
2人だけならウイルスなんて関係なくなるのに。
そうであれば、どんなに良いだろうか。
「大好きです」
「俺は愛してる」
「…狡いですよ」
「大人ってのは狡い生き物なんだよ。
身に滲みてんだろ」
幼い頃、母親にされたように優しく背中を擦られ涙が滲む。
とてもあたたかい。
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