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第1064話

恋人は、いつもにこにこと笑っている。 きゅっと上がった口角がそれを強く印象付けているが、楽しそうに笑ったり、何かを我慢しながらそういう顔で笑ったり、見ていれば本当の感情が分かる。 だから、今の笑顔が少し無理をした物なのも理解していた。 世界的にこんな事になっている以上、皆多少の無理はしている。 それこそ、小学生や幼稚園、保育園児もだ。 だとしても、その変化に気付きたい。 見失いたくない。 そう思うが、三条には三条の生活があり、長岡にも長岡の生活があり思うようにはいかない。 守られるべき子供と、守るべき大人。 生活区域の違いは大きかった。 ただ、ストレスを溜めているであろう三条に対して何をしてやれるのかという自問はやめない。 出来る事はしなければ出来ないのと同じだ。 そんなの勿体ないだろ。 「帰ったら、風呂でよくあったまれよ」 「はい。 正宗さんはシャワーですか」 「1人だとな。 でも、土日は浸かりてぇな」 寒くて身体をあたためたくても1人だと大量の湯を溜めるのは経済的ではない。 三条が居る時なら、2人で浸かれば湯も少なくて済むだけではなく楽しい。 それを知っているからか、1人で湯を溜めて浸かるのはあまりしていない。 じっと見詰めてくる綺麗な目を見ながら言葉を選ぶ。 「風呂ん時、通話するか?」 「ビデオ…?」 「ははっ、良いぞ。 あ、裸が見てぇのか? 発情すんなよ」 そして、からかわれたのだと分かる顔をする恋人の頭を撫でた。 漸く表情がやわらかくなってきた。 顔の筋肉に力が入っていたと言うかなんと言うか。 あれはあれで可愛いのだが、やっぱり、この顔の方がよく似合っている。 肉付きの悪い頬に触れると冷えた指先をあたためてくれる。 「今日も繋げたまま寝るか」 「でも…」 「俺は仕事だから朝起きるけど、それでも良いなら」 伸びた髪を耳にかけ、現れた頬を指の背で撫でる。 甘えてくれ。 頼ってくれ。 そんな事しかしてやれないんだ。 「ありがとうございます。 じゃあ、と言うのもあれですけど、また夕食の時にも繋げたいです」 「ん。 しような。 飯テロしてやる」 「へへっ」 「あぁ、それと、また公開オナニーも観してな」 「っ!」 悲しい時、苦しい時、その思いを少しでも軽くしてやりたいと思うのは当然だろ。 そして、沢山、沢山笑わせたい。 恋人の特権だ。

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