1069 / 1502

第1069話

感染者数が増えて、また会えなくなった。 分かってる。 利口にならなくちゃ。 だって、長岡は公務員だ。 感染すれば保護者は責め立てるだろう。 ネットは無防備な心を傷付けるだろう。 万が一にでも生徒へ拡げてしまえば、どうなるか考えるのは簡単だ。 そんなのは嫌だ。 絶対に嫌だ。 あんなに優しい人が傷付くなんて許せない。 だから、会わない。 そう2人で決めた。 「ぶっぶー」 「背中の上ぶーんして」 「ぶー」 「あー、そこ。 ぶーん」 パーカーのフードを被って、背中を車の玩具で轢いて貰うと気持ち良い。 時々力加減があれだけど。 でも、雪掻きで疲れた腰には丁度良い。 昼飯を食べ終え、積もり積もる前に少し掻いただけで、ぐったりだ。 「はー、今年の雪重てぇからちょっと疲れた」 「ぶっぶっ」 腰の辺りでうろうろしていた自動車は、背骨を登って肩甲骨へとやってきた。 ついでに、程よい重さが加わる。 「へへぇ」 「落ちんなよ」 「あーい」 雪掻きの疲労と背中があったかくて、うとうとしてくる。 カーペットがあたたかくて、背中に乗る重みも丁度良くて、ドラマの再放送がはじまるまでの短い時間。 母親が炬燵で、いんげん豆の筋を剥いている。 とても不思議な時間だ。 学校に通えていたら知らなかった時間は、こんなに眠くなる。 「ぁー…」 「ふふっ、おっきい欠伸。 お昼寝する?」 「んーん…」 「遥登も眠そうだよ」 「んー」 どうやら末っ子も眠そうらしい。 乳幼児の突然の睡眠スイッチが入るのはみていて面白い。 しかも、それが背中の上で起きているなんて。 「一緒にお昼寝しようか」 「ん」 「隣おいで。 シシは?」 黒猫の友人をしっかりと胸に抱くと3人でお昼寝だ。 目を閉じれば何も考えなくて良い。 今は、目の前のしあわせに浸りたい。

ともだちにシェアしよう!